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第31話 匿名通報

Author: なつめ
last update publish date: 2026-07-28 09:03:04

 翌朝、詩乃の前に現れたのは、白衣の医師ではなかった。

 淡い色のジャケットを着た女性が、病室の前で丁寧に頭を下げた。医療ソーシャルワーカーだと名乗ったその人は、柔らかな声をしていた。けれど、その目には慎重な硬さがあった。

 奏音は検査後の疲れで、ベッドの上に眠っている。酸素マスクは外れたが、頬の色はまだ薄い。詩乃はその寝顔を見てから、廊下の面談室へ向かった。

 旭、美琴、朔弥も同席した。

 女性は膝の上で手を揃え、言葉を選びながら口を開いた。

「神澤奏音さんの養育環境について、匿名での通報が入っております」

 詩乃は、最初、その意味が分からなかった。

「……通報?」

「はい。病弱なお子さんを連れ回している。父親不明のお子さんを盾にしている。義弟にあたる男性と不適切な関係にあり、その住居にお子さんを滞在させていた。お母様が精神的に不安定で、医療判断に適さない可能性がある、といった内容です」

 言葉は丁寧だった。

 だからこそ、刃物のように深く入ってきた。

 昨日まで画面の中で増えていた悪意が、今度は正式な手続きの顔をして病院へ入り込んでいる。噂はただの文字では終わらない。誰かの手に渡
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